サンドわが愛

『サンドわが愛』山方達雄(山方達雄遺稿集刊行会、1996年刊)

    ジョルジュ・サンドにおけるフェミニズムと政治の問題につねに関心を抱き続けてきた著者が、おもに田園小説および作家と1848年の二月革命とのかか わりについて探究した論文の集大成である。『サンドわが愛』の独創性は、その社会学的アプローチと実証性にある。農村における土地所有の問題、労働の問題 (麻打ち家内手工業、出稼ぎ)、また農民の生活事情(食料、医療、捨て子の問題)について、文盲率、穀物生産価格、パンの値段、労働者賃金に関するノアン を含めた三地方の比較など当時の統計資料を駆使して詳細かつリアルに説明されている。当時、政府はマルサス理論に基づき福祉予算を削減、人々に倹約を奨励 する政策をとっていたが、サンドはこれに反対。この経済政策は農村を窮乏させ、捨て子問題を派生させたからだ。『捨て子フランソワ』は、この社会的背景お よびシングルマザー、親権の問題についてのサンドの深い考察から生まれた作品であることが、エスキロスの捨て子理論とともに解明されている。また女性解放 の章では、一部のインテリ女性の政治参加要求運動に批判的なサンドのフェミニストとしての姿勢について様々なサンド研究家の意見を紹介し、作家は女性の問 題を含めたより広い社会のパラダイム変革を希求していたのだと結論づけている。このほか二月革命とサンドとの関係については、サンドが積極的に関わった 『共和国公報』の貴重な資料が添付され、息子モーリスに宛てた書簡を手がかりに、作家とクーデター計画あるいは臨時政府との関係が詳しく読み明かされてい る。サンドの田園小説を客観的により深く理解するために不可欠の研究書である。(文責 西尾治子)