『ジョルジュ・サンド』アンドレ・モロワ、河盛好蔵・島田昌治訳(新潮社、現代世界文学全集29、1954年刊)
ジョルジュ・サンドの生涯を、出生の環境から、72歳にノアンに埋葬されるまで緻密に描いた伝記。著者、アンドレ・モロワは1885年生まれ。自身も 作家であり、サンド以外にもシェリーやプルーストなど、多くの文人・政治家の評伝を書いている。『ジョルジュ・サンド』が発表されたのは1952年で、こ の当時にはまだ個人の元に収蔵され、公開されていなかったサンドの手紙や日記、メモ類などを駆使し、作家の波乱に満ちた生涯を再構築している。モロワ自身 の文壇での活動や、そこで得られた知識や人間関係が大いに威力を発揮しており、サンドが活躍した頃の芸術家たちの交流関係、日常生活など、私たちがなかな か知りえないことも、詳細に見ることができる。また、この評伝は、著者が前書きで述べているとおり、サンドを「創意豊かな作家」、「女性が沈黙している時 代の女性の声」ととらえ、「文学史の上で当然彼女の占めるべき名誉ある位置に彼女を与えてくれることを願って」書かれている。資料は非常に細かく、サンド 自身が書いたもの(主に書簡、自伝的作品、メモ類)が元になって構成されているため、読者は作家の声・思いを直接聞きとり、感じることができる。ただ、翻 訳時期がかなり前で、全集の一巻であるために、現在翻訳の入手が非常にむずかしい。原書はHachette社から新版が刊行されているので、それを参照す る方が簡単かもしれない。(文責 高岡尚子)